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6.09.2016

ニホニウムの騒ぎに騙されないよう

以下は、日刊ベリタ紙に掲載された記事の転載である。


ニホニウムなるものが、ニュースで大分さわがれているようですが、その背景にある意図にだまされないように、騒ぎは無視してください。その根拠の一端を少し科学的すぎますが、ちょっと。
 現在の地球に天然に存在する元素は92種。元素は、原子番号(原子核のなかの陽子の数)で規定され、原子番号1が水素、2がヘリウム、、、、6は炭素、8が酸素、などなどといって原子番号92がウラン。これ以上原子番号の大きい元素は天然にはない。しかし、これより原子番号の大きい元素は理論上は可能であることはわかっていたので、それらをなんとか作り出そうと科学者は試みてきた。その結果、現在では、原子番号93から112ぐらいまでの元素が人間によって合成された。今回のニホニウムは113。これらは超ウラン元素と呼ばれる。
 さて、これら超ウラン元素をどうやって人間が作るか。そのやりかたは、ウランなどに、中性子をあてるのが比較的簡単。というのは、中性子は、電気的に中性なので、原子核(陽の電荷をもつ)に当て易い。プルトニウム(原子番号94)は、原子炉の中で、核分裂しないウラン–238に中性子があたって、出来てしまう。そのほかの超ウラン元素(あまり原子番号の大きくないもの)もある程度このような中性子の作用でできるが、原子番号が大きいものは、これだけではなかなか出来ない。そこで、大きな元素と元素を衝突させて、それらが合体してできる(核融合)ことを期待して、試みられている。今回の原子番号113もそうやってできた。これは、猛烈な速度で衝突させないと出来ないので、サイクロトロンなどの加速器で光の速度に近いまでに加速してやる。
 さて、これを作り出した森田教授は、この新元素合成と原爆を結びつけているようだが、あまりにも無理。ただ、こうした試み(新元素を作ろう)の最初が、中性子を元素に当てるやり方で、たまたまウラン–235に中性子を当ててみたら、超ウラン元素が出来るどころか、分裂して小さい元素になってしまった(核分裂)。それが原爆・原発につながっていくのだが、今回の新元素の合成を、これと関連づけるのは、どうかと思う。
 正直に云って、こんなモノを作り出してどうということはない。科学上の原理が、超ウラン元素の可能性を示しているので、作ってみたにすぎない。なんのために。ほとんど使い道はないし、あったとしても、大量に安く作れるわけではない。莫大なカネをつかって、ほんの少し、その存在とある程度の性質がわかる程度の量しかできない。113の場合は、出来てすぐ消えてしまう。
 実は、こうした超ウラン元素のいくつかは、おそらく地球生成時にはあったと思われるが、半減期が比較的短いので、人類が誕生する以前になくなってしまった。いや大部分は生命が誕生する以前に消滅した。なおこれらすべての超ウラン元素はアルファ線をだす放射性元素ですから、なくなって結構だったのです。それを今更作り出そうなど、必要はない。科学理論の証明目的以外には。とくに問題なのはプルトニウム。なお、ウランは非常に長い半減期を持っているので、地球が出来た時にあったものが、だんだん減ってきたとはいえ、まだ残っているものです。
 天然にある元素の語源は、様々だが、超ウラン元素は、著明な研究者や、ギリシャ神話 、研究所の所在地などに基づいて命名されてきた。プルトニウムはギリシャ神話から、そのほか、アインシュタニウム、アメリシウム、カリフォニウム、ノーベリウム、フェルミウムなどがあるが、最近は、なかなか適当な名前が見つからず、苦労しているようである。ニホニウムなんて、あまり響きはよくないですが、気にしないことです。騒ぎ立てるほどのことはない。
 ところが、日本政府は、この事象、特に名前、が日本のアジアにおける優位さを表すなどと、騒ぎ立てている。そのうえ、このモノ(新元素)がどんなもので、その合成がどんな意義があるかもわからない人々に、その大切さ、原爆・原発との関連などを強調して、現今の反原発(反原爆はもちろんのこと)の雰囲気に油をさそうとしているかに見える。騒ぎに騙されないように。