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2.28.2011

アメリカ市民の蜂起−3−全国に波及


(日刊ベリタ2011.03.01からの転載)

これは先の報告(日刊ベリタ2011.02.20, 02.25)に続く2月26日現在のアメリカ市民蜂起の報告である。
まず、ウイスコンシン州下院は、共和党の強行採決(日本では自民党が、新教育基本法や国民投票法案などで使った)により、25日早朝、例の問題の法案を可決した。上院は、先の報告のように、14名の民主党議員が、州外に隠れて出席を拒んでいるので、開かれていない。また、共和党の上院議員の一人、デール・シュルツ氏が、この法案へ反対の意思を表明した。あと2人の共和党議員が反対に回ると、この議案は上院では成立しない。これがどう進展するか。
マジソンのデモは、26日(土曜日)には約10万に膨れ上がったようである(この数は、最低の見積もりで、15万ぐらいという推計もある)。気温は零下、しかも雪の降るなかでのことである(右上の写真)。また、MoveOnという全国組織の推計では、この日、全国各地のデモ参加者は約5万になったそうである(*)。
主な動きを拾ってみる(*)。先ず、オハイオ州では、ウイスコンシンと同様な法案を提出し、数千人のデモが州都コロンバスで行われた。ここの議会では、共和党が圧倒的多数なので、民主党議員が雲隠れするという手が使えない。しかし、インジアナ州では、労働組合弾圧の法規提案に対して、民主党議員が、ウイスコンシンに倣って雲隠れしている。ニュージャージー州でも、同様な共和党の法規提案に対して、約3100人ほどのデモが金曜日にトレトン市で行われた。ニューヨークでは数千人、シカゴとロスアンジェルスでそれぞれ2000人ほど、首都ワシントンでも約1000人がデモ。数百人のデモがオレゴン州のポートランドと州都のサレム市で、ワシントン州の州都オリンピアでは数千のデモがあった。
ペンシルバニア州フィラデルフィアでは、数日間にわたって1000人ほどのデモが展開され、彼らは「Tax the rich, stop the war」と点呼したそうである(*)。実は、この二つ(富裕層への減税と軍事予算の肥大化)が、差し当たっての最大の問題点であり、この2つが解決すると,現在の世界各国の財政緊迫問題のかなりの部分が解決できるはずのものである。これを認識する人は多いと思うが、それを声を大きくして多くの人が権力側に訴え、変更をせまることが非常に重要である。アメリカが特にそうだが、日本も含め多くの国の問題でもある。
日本でも、税制改革が議論されているが、消費税のように、国民全部に貧富の差に拘らず同率で徴収することは、貧富の差を広げることになる。企業や富裕層への税率を上げることこそが、必要なのである。日本ではいざ知らず、アメリカでは、企業は様々なループホールを使って、税を納めないところが多い。
アメリカでの根本問題の一つは、多くの市民の無知である。例えば、多くの市民は、社会保障年金とか(高齢者のための)医療保険(Medicaid)とか貧窮家庭に与えられるフードスタンプなどが、政府による社会福祉策であることを理解していない(*)。そして、共和党やエリート層による、現政府が社会主義的であり、政府が大きすぎる、だから縮小(そして年金などのカット)すべきだという宣伝に乗って、共和党を選び、それが自分達の首をしめることになるのに気がつかない。対する民主党も、基本的には企業に操られていることもあり、共和党に対する有効な批判ができていない(実際は国会議員のレベルでは残念ながら民主党と共和党もあまり差がない)。
 今までに述べたきたように身近な問題から、自分達の権利剥奪を共和党が画策していることに気がついた市民が立ち上がったのが、今回の市民運動である。そして中には、フィラデルフィアでの連呼のように「富者(企業も含む)への税の引き上げと軍事費削減」という緊急課題に気がつき出したことは、非常に喜ばしい。世界中で多くの市民がこのことを声を大にして叫ぶことが必要である。企業への税の引き上げなどについては、したり顔の識者や政治家達は、国際競争力に足かせになることになるとか、様々な理由を持ち出して来るだろうが,根本的に考えなければならないのは、「経済は何の為にあるのか」(企業や少数の富裕層を肥やすためか、または、市民の多数の生活を豊かにするためか)という問題である。
(*: http://www.alternet.org/story/150059/%28updated%29_rally_for_the_american_dream%3A_huge_gatherings_nationwide_in_solidarity_with_wisconsin_democratic_uprising/?page=entire)

2.27.2011

アメリカ市民立ち上がる

チュニジアから始まり、エジプト、リビアなどの中東に広がっている、政権に対する市民の蜂起がアメリカにも波及してきているのですが、日本のメデイアはほとんど報道していません。そこで、私が日刊ベリタに書いた記事二つを纏めて下に掲げますので、ご覧下さい。これに関しては,アメリカの通常メデイアイも無視できないためにある程度の報道はしていますが、詳しくは、Democracynow.org,Alternet.org, Huffingtonpost.orgなどのインターネットメデイアをご覧になってください。

アメリカ市民の蜂起
(2011.02.20)

エジプト/チュニジアなどの市民運動に勇気づけられたかして、アメリカにも市民が政府/経済エリートのやり方に抗議して立ち上がるケースが増えてきたようである。実際、政府や経済エリートのアメリカの市民無視/抑制は新自由主義経済があからさまに導入され始めた1980年から徐々に進行していたが、2001年のいわゆる同時多発テロ(9.11事件—あの事件の真相は政府発表とは違うらしいことがますますはっきりしてきた)をきっかけにして、国民の安全保障を理由に、市民の思想、集会などの自由の制限が拡大してきた。これには、さらにキリスト教原理主義的な考えの持ち主達が、政治の右翼に台頭し、反オバマ(人種差別主義)も含めて、さらに市民や労働者の権利や自由を狭めつつある。経済的にも、中流階級は消滅しつつあり、少数のエリートと大多数の貧民という第3世界的構造になりつつある。
すなわち、政治的にも経済的にもアメリカは第3世界的になりつつある。ただし、一般市民の物質生活は、それでもまだ第3世界とはかけ離れてはいる。多くのアメリカ市民は、このことを肌で感じているのではないかと思われる。とはいえ、例のテイーパーテイーという人種差別主義、(見かけの)反社会主義的右翼に踊らされている人々は、そうした抑圧感情は感じていないようで、アメリカ憲法そのものこそが、自分達の自由を束縛するものだなどというとんでもないデマを信じ込んでいる。
今回、昨年の中間選挙で当選したウイスコンシン州知事は、共和党(テイーパーテイー派)のスコット・ウオーカー氏だが、彼は、州の財政を立て直す一助にと、労働者(州政府労働者)の年金や健康保険の自己分担金の増額などを提案し、さらに労働組合の交渉権などをはぎ取るような提案を出してきた。(なお、州政府労働者のうち、警官と消防士はこうした規制を適用しない例外とされた。)これに抗議して1月末頃に700人ほどの労働者が州議事堂前で抗議集会を開いたが、ほとんどメデイアの注意を引かなかった。
同時期に起っていたチュニジア・エジプトでの多数市民の蜂起に刺激されて、2月15日には、1万5千を超す労働組合員、市民が州議会場に押し掛けて抗議した。州都マデイソンには、州立のウイスコンシン大があり、その教師達、大学職員、公立学校教師、州政府役人などが対象の主なところだが、この抗議集会には、鉄鋼労組、トラック運転手組合その他の労働組合員も参加した。マデイソン東高校の生徒800人もクラスをボイコットしてデモに参加。さらに例外とされた警官や消防士達もデモに加わった。翌日の16日には、公立学校の教師の40%以上が抗議の為に病欠の届けをしたため、公立学校は全て休校となった。17日には、デモ参加者は3万になったようである。議会内でのこの議案に対する公聴会では、反対の意見が多数であるが、共和党は、これを無視して、上程し、通過させようとしている。日本の自民党が新教育基本法や国民投票法案などを無理矢理に成立させたのと同じやり方である。このぐらいに拡大すると、普通のメデイアも取り上げざるをえなくなったようである。日本にまで報道されているかどうか。この結果はいかに。
この他にもまだこれほど大規模には至っていないが、アメリカの各地で、大企業(とくに健康保険業—保険料の値上げ)や地方政府による市民抑圧・貧窮化政策への抗議が起こりつつある。これらの動きがアメリカ中で大きなうねりとなって、現在の政府や経済エリートをなんとか動かす運動まで進展するかどうか。

アメリカ市民の蜂起—2
(2011.02.25)

先頃報告した(日刊ベリタ2011.02.20)2月14日頃に始まったウイスコンシン州の公務員の組合組織の交渉権剥奪の州法に反対する州都マジソンでの抗議集会は増々大きくなり、先週土曜日(2月18日)にはおよそ8万人に膨れ上がったそうである。今週になっても参加者は増え続けているようである。地元の教師達は、そうそう教育をおろそかにはできないので、交代で抗議に参加したり、州外からも労働組合関係者が駆けつけたりしている。また、大学生や大学院生達も参加していて、彼らは、人々の残したゴミくずを自発的に清掃している。また、全体として暴力は振るわれず、バンドが登場したり、ピッザが配達されたりと、険悪な雰囲気はないとのことである。なお、この法規には組合組織をつぶすという意図の他に、賃金カット(年金、医療保険の自己負担増額)があるが、この点については、抗議側はすでに譲歩している。
しかし、このカネの面については、州内の市町村の財政を圧迫するようになるので、市町村レベルの反撥が台頭してきていて、それらがこの抗議運動に参加し始めている。マジソンの市長が、組合員を先導して、州議会へ行進した。すなわち運動は州全体の問題になりつつあり、ビジネスも知事支持に躊躇しだしたようである。
ところで、法律の審議はどうなっているか。州の上院議会では、民主党議員14名が、州外に身を隠すという手段にでた。そうすると、定足数に1人足らず、正式な議会が開催できない。デモ参加者は、こうした民主党議員達のやり方に拍手を送っている。与党共和党側は、あらゆる策略をめぐらして、民主党議員を議会に引っぱり出そうと躍起になっている。警察を動かして、少なくとも1人を捕まえてこようともしているそうである。定足数にするには、1名でよい。
州知事は、全然妥協の様子を見せていない。滑稽なことに、この知事は、有名な金持ちの支持者を装ったリベラルなジャーナリストと電話で対談し、この金持ち(偽)に、自分の本音—労働者の自由の剥奪、中流階級消滅などーを赤裸々に語ったのが、ネットメデイアに流された。この内容はかなり広く知られ、州警察所長は、その内容に強い抗議の意を知事にしたようである。
州知事は、来週火曜日には、予算案についての演説をすることになっているが、州議場外で行うらしい。これは州法違反だそうである。
通常のメデイアはこの抗議行動を報道してはいるが、重点の置き方は、州財政の立て直しのための賃金カットの必要性であり、しかも州労働者(公務員)が民間人よりも年金や医療保険などの面で、かなり優位にあることを強調していて、民間人の反感を煽るような傾向もある。また、多数の抗議デモに対して、州知事に賛成するテイーパーテイーの少数の対抗デモに焦点を当てたりしている。
全米で、29の州で共和党員が知事をしていて、オハイオ、ペンシルバニアなどでも、公務員の交渉権などの権利剥奪、自由抑制などの動きを起こしている。こうした知事が選挙で選ばれたという点では、形式的には、民主主義には違いないが、当選するや、このように、反対を遮二無二押し切って強行するのは、民意に反する。なお、どうしてこうした人々が選挙されたのかについては、先の選挙の際に、簡単な考察を述べた。日本の政治体制でも同様な現象が起っていて、いわゆる代表制民主主義の根本問題である。ウイスコンシン州での反対・抗議運動が、どこまで持ちこたえ、さらに他の州まで拡大していくか、注目したい。